お金の勉強をするブログ

1級ファイナンシャル・プランニング技能士。CFP。お金の知識をわかりやすく伝えることを目標に、記事を書いていきます。

知っておこう! ベーシックインカムとは

こんにちは。FPのみかりこです。

ベーシックインカム”って言葉、最近よく聞きませんか?

著名人の中では、ホリエモンさんがベーシックインカム推しているので有名ですが、そもそもベーシックインカム=BI(以後こちらで表記)とはどんなものなのか、大まかではありますが、分かりやすく説明してみたいと思います。

 

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辞書で“ベーシックインカム”と引くと「就労や資産の有無にかかわらず、すべての個人に対して生活に最低限必要な所得を無条件に給付するという社会政策の構想。社会保険や公的扶助などの従来の所得保障制度が何らかの受給資格を設けているのに対して無条件で給付する点、また生活保護や税制における配偶者控除など世帯単位の給付制度もある中で個人単位を原則とする点が特徴である。」とあります。

大雑把に言ってしまうと、国民全員に一律8万円(仮)を支給し、その代り、生活保護や失業保険などをなくすという政策です。生活保障の基準や制限などを取っ払うため、非常にシンプルになります。このBIがもたらすメリットを以下にあげてみます。

 

1.すべての人に所得を補償するため、貧困問題の解決になる。

日本で導入された場合、一律8万円くらいと試算されていますが、8万円で貧困問題が解決するかどうかは疑問です。確かに8万円あれば最低限の生活はできると思いますが、大きな病気をしたり、不測の事態が起こった時に一気に貧困になる可能性もあります。

 

2.制度が簡素化されるため、行政の管理コストが節約できる。

生活保護や失業保険、年金などの社会保障制度が一本化できるため、煩雑な管理コストが削減でき、行政のスリム化が行えます。しかし、今までこの場所で利益を得ていた既得権益からの反発は強いと思われます。

 

3.家族形態や働き方に依存しないため、個人の生活スタイルの拡充が期待できる。

一定の生活保障があるために、仕事に縛られる必要がなくなり、趣味やボランティアなどに精を出せます。また、個人を単位として支給されるため、家族形態による不公平(配偶者控除や扶養控除など)がなく、多様な生き方の尊重に繋がります。

 

4.生活のために無理に働く必要がなくなるので、ブラック企業が淘汰される。

生活のために、劣悪な環境で、過度の残業をする必要がなくなるので、そういった企業は成り立たなくなっていくでしょう。「お金を得るために働く」から「やりたい仕事をする」にシフトできることは大きなメリットです。

 

5.終身雇用や最低賃金など、企業側の責任が軽くなり、雇用の流動性が増す。

企業側も、従業員の生活を保障するという重責から解放されるため、使えない人材は簡単に解雇でき、能力の高い人材を補充できます。また、最低賃金の保障もなくなるので、やりたい人が多い仕事の賃金はより安く、敬遠される仕事の賃金はより高くなり、適正な労働市場が形成されます。

 

これに対し、デメリットもあげてみましょう。

 

1.働かなくても生活できるため、勤労意欲が削がれる。

働かなくても一定の金額がもらえるなら、仕事を辞める人が増えるのは当然のことです。多くのBIに関する研究でも、この勤労意欲の低下を懸念しています。しかし、現在の生活保護や年金制度には所得の制限があり、所得が増えると受給額が減らされるため、働いた場合より、働かない場合の方が得をする逆転現状が起きています。これに対し、BIは働いたら働いた分所得が増えるため、かえって勤労意欲は増すのではないかという意見があります。生活のために嫌な仕事をする必要がない分、本当にやりたかった仕事ができるといったメリットもあります。働かない人が出てくる一方、仕事のモチベーションが上がり、これまで以上に働く人も出てくるので、あまり変化はないのかもしれません。

 

2.BIの原資が巨額となり、財政を圧迫する。

これが一番実現を困難にしている理由でしょう。仮に日本で一律8万円を支給という形になったら、8万円×12か月=96万円、96万円×12500万人=120兆円が必要となります。経済評論家の山崎元氏の試算によれば、日本の社会保障給付費は998500億円で、そこから医療の308400億円を差し引くと69兆円となり、これを12500万人で割ると月額46000円になります。*1

46000円までは増税なしで財源が確保できるという計算ですが、データが2012年と古いので最新データで計算し直してみると、社会保障給付費118.3兆円で、そこから医療の37.9兆円を引くと80.4兆円になります。*2

月額8万円とした場合、残りの約40兆円はなんらかの増税で賄う必要がありそうですが、仮に所得税増税した場合、現在の所得税の税収は18兆円*3であり、これとは別にBI財源を確保する必要があるので、今より3倍以上の所得税を徴収しなければならなくなります。

そもそも所得のない年金生活者からは取れないので、これからの少子高齢化社会ではかなり厳しいものがあります。

 

3.特定分野(不人気職)の人出不足が深刻になる。

働かなくても一定の収入があるならば、辛い仕事、嫌な仕事には誰も就かなくなります。しかし、世の中には欠かすことのできない仕事があります。その場合、賃金を上げて対応するしかなくなるわけですが、そうなると人件費が嵩んで、事業がとして成り立たなくなるケースも出てきてしまいます。逆に人気の仕事は競争率が高くなり、いい人材が集まる一方、最低賃金といった保障がいらなくなるため、ただ同然のような賃金や報酬で働かされることが問題になりそうです。

 

4.健康状態に合わせた柔軟な対応ができなくなり福祉水準が低下する。

BIが導入されたからと言って、日本の国民皆保険制度がなくなるとは思えませんが、制度としては非常にシンプルに縮小されていく可能性はあると思います。たとえば、今まで生活保護受給者は、国民健康保険から脱退することによって、自己負担0で利用できました。BIの導入によって生活保護制度がなくなれば、医療費は3割負担(小学校入学以後70歳未満)となります。また高額療養費は所得に応じて段階的に自己負担限度額が決められていますが、こちらも一本化によって、低所得者の限度額が引き上げられる可能性もあります。制度がシンプルになるということは、行政の業務削減というメリットがある一方で、今まで行政に拾われていた部分がなくなり、自己で解決しなければならないなど、弱者にとってはより厳しくなることが想像できます。 

 

まとめ

BIの導入は現状の日本ではかなり難しいように思われます。しかし、ヨーロッパの国々では、議論が盛んに行われ、実験的に一部で導入している国(フィンランドやオランダなど)もあります。それだけ、BIに対する期待は高いのです。私も、AIの導入などで職にあぶれる人たちが出てくるのは避けられない未来において、この制度は大変魅力的に感じます。ただ、BIによって、社会保障制度が簡素化される中で、弱者が切り捨てられることがないよう、必要な保障まで取り去らないようにすべきだと思います。そのためには財源確保の問題がネックとなるでしょう。これから増々日本は高齢化していく中で、何より悩ましい問題ですが、理想を現実に落とし込んでいく作業を少しずつでも推し進めていき、いつかBIを実現した世の中がきてほしいと個人的には思います。

 

*1:山崎元 “「ベーシックインカム」の誤解を解く|山崎元のマルチスコープ” ダイヤモンド・オンライン 2012321日より

*2:社会保障費の増加と財政状況 政府広報オンライン

*3:平成28年度一般会計予算(平成28年3月29日成立)の概要<財務省>より